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空のゴミバケツ

 10年ぶりに『山谷 やられたらやりかえせ』を観た。いつも云っていることだが、1本の映画の製作に携わったふたりの監督が殺されている映画など世界中探してもそうそうないだろう。美男美女がまったく出ない、登場人物のせりふが聴き取りづらい、音楽がいい。初めて観たときの印象のままだ。冒頭はほんとうにかっこいい。暴動を扱った映画は少なくないが、これは格が違う、投げつけられる空のゴミバケツにほんものの暴動の迫力が匂う。臭う。  

 

 

 夏祭りのシーン、公園の片隅に設けられた祭壇に三つの遺影。船本洲治、佐藤満夫、デカパン。激しい音楽が奏でられるステージに背を向けて焼香する男の背中をえらく長く写し続ける。そのアンバランスさに素人監督の凄みを見出す。追悼、あらためて思った。追悼の映画だ、と。シューベルトの冬の旅が荘厳に流れはじめる場面がある。佐藤監督虐殺弾劾集会のシーンだったか。ひんやりとした冬の空気と静かな悲しみが伝わる。追悼されるのは佐藤監督だけではなく、日本の近代化の過程で犠牲となった朝鮮人や労働者など、搾取されてきたすべての誰か、である。  

 

 

 終映後、水族館劇場の千代次さんのトークライブがあった。千代次さんがポロっと語った映画の印象、「団交で経営者を追いつめる争議団のひとたちより、吊るし上げられて言葉を詰まらせている経営者たちのほうが面白い」と。よくわかる。確かに、ど迫力の争議団に囲まれオドオドしているケタオチ業者は「そんなに悪いやつじゃないんだろうなあ、下請け業者に過ぎないこのひとたちもどっちかというと弱者かもしれないなー」と同情を覚えたり…。千代次さんの指摘に対して、映画にも登場している当時の支援者たちの何人かがコメントした。紋切り型の追及しか出来なかったところに運動の限界があった、と潔く振り返る人。この映画が映し出しているのは運動の限界だったと当時から思っていた、と、悔恨と共にこの映画を見守って来たことを明かしてくれていた人。また、別の活動家は、その場面だけ切り取られたら「面白くない」ように見えるかもしれないが、団交に至った過程を想像せよ、と反論した。寿町の支援をしている若い人は、寄せ場の「いま」を語っていたが、それはあまりにもまっとう過ぎて、むしろ千代次さんの指摘した「政治言語の退屈さ」を図らずも露呈してしまっていたように思えた。  

 

 

 千代次さんは、玉三郎さんの回想を通して、政治的対立を乗り越える力が芸能にはある、ということを云いたかったのだと思う。決して寄せ場の活動家を貶める意図などない発言だったと思う。  

 

 

 ぼくが連赤にはまったきっかけを作ったひとつが、植垣さんの本にある「赤ちょうちん」の場面。M作戦のアジトを探していた植垣さんが駅のホームから見えた赤提灯にひかれて居酒屋に入る場面。その人間くささが入口となった。  

 

 

 最近のネットニュース。女性タレントが左翼バッシング本を青林堂から出した。東京堂書店でサイン会をやろうとしたが、書店に抗議が来たとかで中止になったという。右翼は「表現の自由を奪う行為」と怒っているが、むしろこれは右翼の得意な手法である。かつて、長井勝一さんが作ったレジェンド出版社・青林堂もいまとなってはヘイト本専門出版社で、そんな出版社の本を東京堂書店でサイン会までやって売ろうとする、かつては青林堂の変貌ぶりに驚いたけど、東京堂書店も(店内のレイアウトだけでなく)変わったんだなあと再確認。ただ、そんなものに、タレントのサイン会ごときにめくじらを立てる必要はなかった。そのタレントは脱原発運動に参加して左翼(新左翼活動家?読んでないから詳細は不明)に幻滅したという。そういう人は少なくない。下北沢の店舗によく来てくれていた活動家のお客さんも経産省前のテントを支えていたひとりだったが、新左翼ゴリゴリのセクショナリズムを持ち込もうとするオールドスクールな活動家の振る舞いには閉口していた。同じ活動家でもそうなのだから、いわんや素人のタレントにしてみれば相当きつかったろう。 それにしても、そこから「愛国」まで行っちゃう?「反動」って凄い。反動愛国。

 

 

 連赤の総括では個人の欲望が否定され、糾弾された。お洒落をしたいという欲望も自分のこどもを育てたいという希望すらも総括の対象になりえた。教条主義的な紋切り型の政治言語を乗り越えるのはやはり個々の欲望なのだと思う。下請け業者のちっぽけな欲望から滲み出る人間くささが政治的紋切り型よりも時に魅力的なのはそういうことなのだろう。

at 17:59, 古書赤いドリル, -

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